2024.11.22 (Fri)
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2011.09.18 (Sun)
この物語はフィクションです。
全てはメイプルストーリーの世界観を基にした架空の物語です。
──────これはまだ暗黒の魔法使いが猛威を振るっていた頃のお話。
暗黒の魔法使いの恐怖に脅えるこの時代に、一人の盗賊がおりました。
そんな彼を捕まえようとした騎士団でしたが、一騎打ちの末敗れてしまいます。
撤収しようと屋敷の外に出ると、なんと盗賊と暗黒の魔法使いがおりました。
目の繰り広げられる激しい戦いに目を奪われてしまいます。
拮抗した戦いを変えてしまったのは、見つかってしまった彼らでした。
暗黒の魔法使いの攻撃をかばって重傷を負う盗賊。
彼らにできる事は、ありませんでした。
次の日、すぐに昨日の戦場へと向かったが、彼の姿は無かった。
女騎士:・・・無事だといいですね。
団長:そうだな・・・その時は、全力で御礼をしよう。
正直なところ、私も彼女も彼が生きているとは思わなかった。
彼が戦っていた相手は今まで何万という人間の命を奪った化け物なのだ。
そもそも、暗黒の魔法使いと遭遇して生き延びただけでも奇跡とされる。
・・・ヤツを倒す事なんて、本当に出来るのだろうか。
大臣:暗黒の魔法使いと遭遇しただって?!
城にこの日の出来事を全て報告すると、話を聞いていた上層部が驚愕した。
私とてあの戦いから帰ってこられたのに対し現実味が沸かないというのが本音だ。
いっそ夢であったらとさえ思う。
だが、あれは夢じゃない・・・彼がかばってくれなければ私たちは死んでいた。
それが事実であり全て。
大臣:任務の方はやむを得まい。奴が直々に来たとあっては、むしろ君たちが生きている事のが重要だ。
団長:ちょっと待ってください。今回の任務についてなのですが・・・、
彼の話をそのまま伝える。
すると、大臣は途端に気を悪くした。
大臣:あの方が暗黒の魔法使いの手先?馬鹿な話だ。どこにそんな根拠がある?
団長:・・・ありません。
大臣:物を奪う盗賊と莫大な寄付金を頂いているあの方、どちらを信用するかなど決まっておる。
女騎士:ですが!彼は私達を助けてくれました!
大臣:黙りなさい!いいですか、民衆には絶対に「騎士団が盗賊に助けられた」なんて言ってはならぬ!!
団長:・・・真実を隠蔽して世間にはなんと公表するつもりですか?
大臣:そこでだ、生き残った君たち2人に特別な階級を与え、さらに勲章の授与式を行う事にする。
女騎士:・・・どういう事ですか?
大臣:いいかね、君たちは2人で暗黒の魔法使いの脅威を振り払ったのだ。
女騎士:?!
そうなるだろうと薄々感じていた。
なにせ事実を知っているのは私と彼女と彼と城の上層部のみ。
盗賊に騎士団が後れをとったなどと世間に知られれば、犯罪に対する抑止力がなくなってしまう。
私とて真実を公表したい、だが世間における彼は犯罪者であり、悪人なのだ。
女騎士:ふざけるな!そんな名ばかりの英雄などなりたくない!!
大臣:ならば名に恥じぬ強さを手に入れればいいだろう?
女騎士:ぐ・・・!
団長:・・・。
大臣の言っている事は正しい。
我々に足りないのは強さ。それは間違いない。
そして民衆の不安を晴らす為にヒーローが必要なのも分かる。
しかし、間違っている。
必要なのは偶像ではない本物の英雄。
彼は言った。
『俺に勝てなくても、暗黒の魔法使いを倒すことが出来る』と。
ならば、私だってなれるはずだ。
本物の・・・英雄に。
団長:確かに、暗黒の魔法使いの脅威に晒されている今、それを退けたという英雄がいれば明るい希望となるでしょう。
女騎士:・・・団長?
大臣:おお、やはり君は理解が良くて助かる!
団長:ですが、その脅威が本当にやってきた時、人々の希望はより大きな絶望へと変わる。
今まで着ていた鎧を脱ぎ捨てる。
大臣:き、君!何を・・・
剣士:今日今を持って、私は騎士団を脱退します。
女騎士:団長!?
彼女が驚くのも無理はない。
人々の脅威は暗黒の魔法使いだけではない。
町を出れば大量に沸きあがる魔物。
窃盗、暴力、あらゆる悪事を尽くす犯罪者。
それらから守る盾であり剣なのが、この王国騎士団。
もし生きているなら、彼が暗黒の魔法使いを何とかしてくれるかもしれない。
けれども、あの時彼は重傷だった。・・・下手したらすでに死んでいるのだ。
剣士:ふふ、違うよ?もう私はただの剣士だ。団長じゃない。
大臣:な、なんということだ・・・。
剣士:ご安心を。決して昨夜の出来事は口外にしません。それでは失礼します。
女騎士:団長・・・。
彼女にはちょっと悪い事をしてしまったかな・・・でも、もう騎士団に属する意味はなくなってしまった。
しかし、これでいい。名ばかりの称号と勲章なんて要らない。
必要なのは、ヤツを倒せる力なのだから・・・!!
外に出ると、すぐに声をかけられた。
剣士:さて、これからどうしようか・・・ん?
???:待ってください!
私服に着替えた彼女が城から私を追いかけてきたようだ。
剣士:てっきり私の代わりに大臣から団長になってくれとでも言われたかと思ったけど・・・
女剣士:私も騎士団を辞めてきました!だからもう団長と同じただの剣士です!
彼女も同じ事を考えていたようだ・・・。
そう思うと、何故だか笑いがこみ上げてきた。
剣士:ふふ、あはははは!!
女剣士:だ、団長?
剣士:ごめんごめん、分かったよ。なら一緒に行こうか。
女剣士:はい!
こうして、2人での旅が始まった。
我々が最初に始めたのは、町に行っての聞き込みだった。
彼が生存しているかどうかを確かめるのが目的だった。
女剣士:・・・情報、ありませんね。
傭兵の施設や騎士団の詰め所でも聞き込みをしたが、情報は一向に出てこない。
初めて情報屋なども活用したが、特に真新しい情報はないとの事。
当然と言えば当然・・・と思ったが、気づいた。
剣士:いや、いいんだ。彼ほどの人物が死んだなら、死亡したという情報が流れるはずだ。
女剣士:なるほど、流石団長!
彼の首には多額の賞金がかけられている。
その額は、あの貴族の全財産の半分になる大金だ。
暗黒の魔法使いとて、手下に換金させて軍資金にしたいはず。
ヤツなら無理やり奪うことも可能だろうが、水面下で事を進めたいなら金が必要だろう。
それと、彼女は騎士団を抜けても団長と呼ぶのをやめなかった。
まぁ他に良い呼び名がないので構わない。
女剣士:それで、これからどうするんですか?
剣士:役所にいって彼について調べようと思う。いくらなんでも、卵から生まれたなんて事はあるまい。どこかに親がいるはずだ。
彼の情報を少しでも探って近づく。強くなるための手がかりは今のところそれしかない。
女剣士:ですが、彼は指折りの犯罪者です。その親となると・・・。
極刑にされた可能性があるのは否定できない。
剣士:けど、何らかの情報が残っているかもしれない。0じゃない限りは探す価値がある。・・・他にアテもないしね。
女騎士:・・・そうですね。
役所で騎士団長の名前を利用し、彼の情報について問い合わせてみると、なんとあった。
しかしぬか喜びであった。
出てくるのは指名手配された後の情報ばかり。
その前となるとまるで存在などなかったかのように情報がない。
女剣士:・・・故意に消されてる気がします。
剣士:確かに・・・いや、待った。
手に取ったのは最初の指名手配についての資料。
以降恐ろしい速度で悪事を重ねて賞金の額が跳ね上がっている。
それでも彼は傷害こそあれど、殺人はしていなかった。
以前密偵を捕らえて話を聞いた事がある。
殺しつつ逃げるより殺さずに逃げる方がはるかに難しいと。
剣士:なるほど、国が彼に恐怖する気持ちもわかるな・・・。
もし彼が盗賊ではなく殺戮者だったら誰も止められないだろう。
女剣士:・・・ですが、この歳で最上級の危険人物扱いですか・・・。
生きるか死ぬかの環境が彼を早く成長させてしまったのだろう。
その際、やはり親は捕まり極刑を受けていた。
剣士oO(これで孤児だったら完全に手詰まりだったな・・・。)
今度はその裁判を調べてみる。
子の情報は皆無でも親の方からある程度は割り出せないかと予測したのだった。
女剣士:罪状は詐欺ですか・・・彼は人を騙すような人間じゃなかったと思うのですが・・・。
細かい内容は出てこなかったが、原告側の身元を突き止めた。
これまた高名な貴族で、特に魔法に関して詳しい家柄だ。
女剣士:一歩前進ですね。
剣士:そうだな。
しかしその屋敷がかなり遠い。
行く為には森を抜ける必要があるし、数日かかるだろう。
剣士:どちらにせよ、行くしかないな。
女剣士:ですね。
役所を出て、この貴族の屋敷へと出発した。
役所で貰った地図とコンパスを確認しながら、森の中を進む。
思えば、この森には入った事がない。
魔物もほとんどいないし、植物も豊富で食料になりそうな草や実がいくつもなっている。
それを彼女が採ろうとしたので止めたほうが良いと嗜めた。
採ると森の魔物が怒るだろう。
元より町から出る前に食料を買い込んである。
森の恵みに頼るのは最後の手段でいい。
日が沈んだ。
最初から森でキャンプをする予定だったのでテントも用意してある。
テントを張って焚き火を起こす。
女剣士:わぁ、手際いいですね。
剣士:うん。慣れているからね。
焚き火を囲い用意した食料を焼いて食べる。
女剣士:団長は何で騎士団に入ったのですか?
思えば、彼女とこうして他愛のない会話するのは初めてかもしれない。
剣士:・・・私が家にいない間に、町がモンスターに襲われたんだ。
妻と、小さな娘の3人家族。
海沿いの港町でそれなりに満足した生活を送っていた。
その日は狩りではなく漁の仕事だった。
仲間達で取り決めた事で、ある一人の意見で狩りと漁は交互に行う仕組みになっていた。
魚も肉も両方食べたいとの事。
後で交換すればいいじゃないかと皆が笑ったが、どちらも出来れば役に立つだろうという事で可決。
その日の漁は、妙に大漁だったのを覚えている。
意気揚々と帰ってくると町が異常なほど静かな事に気がついた。
生きている人間はどこにもいなかった。
身体半分噛み千切られた死体。頭だけとなった知り合い。
家へと戻ると、胴体だけとなった妻がいた。
娘にいたっては死体さえなかった。
後に聞く。
海から沢山の魔物がやってきて町中の人間を食い殺したらしい。
皮肉だが、町を襲っていたから海の魔物がいなかったので、この日大漁だったわけでもある。
森に逃げた人間もいたらしく、死体となって発見された。娘の死体はなかった。
1人になった私が手に取ったのは、剣だった。
剣士:それで、傭兵だった私を騎士団がスカウトしたんだ。
それを聞いて罰の悪い顔をする。
女剣士:あの、すみません・・・。
剣士:ふふ、昔の話だよ。吹っ切れたとは言えないけど、悲しいのは私だけじゃないからね。
生き残った仲間はわずか数人。
傭兵になったのは私だけなので、皆とはもう別れてしまったが。
剣士:まぁ私の事はこのくらいにしておこう。そろそろ寝ようか。
女剣士:あ、はい・・・。
燻っていた火を消して、横になる。
しばしの静寂の後、
女剣士:あの、団長?
剣士:なんだい?
女剣士:何故団長はあの盗賊にこだわるのですか?
ポツリと聞いてきた。
しばらくどう返事しようか迷った挙句、
剣士:元騎士なのに、こういっちゃあれだけど・・・憧れているんだ。
女剣士:・・・今ならその気持ち、わかる気がします。
本音を述べた。
彼を見ているとどうしても思ってしまうのだ。
もし、彼ほどの実力があれば故郷を救えたかもしれない。と。
ヤツを倒したいのはかつて救えなかった故郷の為。
私はもうあの悲劇を繰り返させたりはしない・・・!
テントをしまい、森を抜けて貴族の館へと向かう。
剣士:もうすぐだね。
地図を見る以前に、遠巻きながら館が見えた。
女剣士:ですが、簡単に取り合ってくれますかね・・・?
剣士:その時はその時さ。
まだ、知らなかった。
つづく(第十八話へ)