2024.11.22 (Fri)
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2010.10.23 (Sat)
この物語はフィクションです。
全てはメイプルストーリーの世界観を基にした架空の物語です。
──────これはまだ暗黒の魔法使いが猛威を振るっていた頃のお話。
暗黒の魔法使いの恐怖に脅えるこの時代に、一人の盗賊がおりました。
盗めぬ物などないと言われた彼が出した犯行予告。
それを阻止する為に国の騎士団が警護に付きました。
特に団長である彼はずっと盗賊を追ってきました。
彼にとっては滅多にないチャンス、一体どんな展開になるのでしょうか?
静寂の中、大広間に取り付けられた大時計の音がこだましていた。
女騎士:犯行予告どおりに来るのでしょうか?
すぐ近くで品を守る彼女が聞いてくる。
女性ながら剣の腕は男性に引けを取らない。
それゆえ最も重要な品のすぐ近くでの守護を任せたのだ。
団長:多分来ないな、それより早いか遅いかは分からないが・・・ん?!
「来たぞー!奴だー!!」
その声に全員が気を引き締める。犯行予告の時刻よりかなり早かった。
あらゆる方向から奴が来る事を覚悟する。
外を守らせている騎士達は残念だが突破されたと考えたほうがいい。
奴の足ならたやすく飛び越えて窓から侵入してくるだろう。
その為に上階の窓全てにも騎士を配置したのだ。
たった一人の為に騎士団を総力をあげるなんて今までに前例はなかった位である。
いかに速かろうと、これだけの人海戦術で待ち伏せておけば捕まえられない道理は無い!
ガシャーン!!
窓の割れた音がする。
団長:やはりな!捕まえろ!!
上階にいた騎士達が割れた窓の方へと集まる。
しかし・・・
「違います!影です!こちらは囮・・・うわあ!!」
その後、上階の騎士達からの声は聞こえなくなった。
団長:なんだと?!クッ!上階からの援護は得られない!各自気を抜くな!
女騎士:だ、団長!アレを!
指を指した方向は、正面の扉だった。
団長:な、なにぃ!?
盗賊:・・・。
そこには、とても不愉快そうな顔をした奴がいた。
もちろん正面からの侵攻も想定していたが、ここまで堂々と入り込んでくるとは思わなかった。
盗賊:動くな・・・と言っても、動けないと思うがな。
団長:何を言って・・・!?か、身体が!?
触れられてもいないのに身動きが取れない。
私も含めた騎士達が必死になってもがいている。
団長:一体どんな魔術なのだ?!
驚愕する私達に奴は言う。
盗賊:そう驚くな、ただの『影縫い』だ。ちょっと強力なヤツだが。
下を見ると、自分たちの影に何か刺さっている・・・たったコレだけで動きが縛られているのか!?
スタスタとこちらへと歩いてくる。
圧倒的に有利な状況であっても、奴の不愉快な顔は変わらない。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、身体が動いてくれない。
女騎士:おい!卑怯だぞ!正々堂々と戦え!!
盗賊:・・・普段でも心外だが、今回はさらに心外だ。お前ら俺と心中したいのか?
女騎士:何を言って・・・!
そこで、違和感に気づいた。
奴は目当てである品の前で、立ち止まっている。
動けない私達と会話などしないで、盗っていけば良い筈だ。
団長:・・・何故とらない?
そう聞くと、奴が少し感心したように言った。
盗賊:台座に爆弾が仕込まれてる。多分この屋敷ごと跡形も無く吹き飛ぶだろうな。
団長:なんだって!?
女騎士:そんな・・・!馬鹿な!嘘に決まっている!
声を荒げて皆は否定するが・・・私には嘘をついているように思えなかった。
今まで、彼を何度も追いかけてきて、卑怯、汚いと称される手法をとられた事は無かった。
上手く言えないが・・・彼は、そう、どこか潔いのだ。
団長:・・・なんで爆弾が仕込まれていると分かるんだ?
盗賊:時計の音とは別に似たような音が台座から聞こえるだろうが。多分時限式で犯行予告の時間になったら爆発するぞ。
多分品を取っても爆発すると付け加えた。
私達に向けてあきれ口調で奴は言う・・・やはり嘘をついているようには見えない。
女騎士:あ、ありえない・・・。
口でそう言っても、その爆弾が本当に存在したらという恐怖と不安が彼女を揺さぶる。
盗賊:あぁそれと、上階の窓にも反応式の爆弾が設置されていた。爆発した時、近くにいたらまず死ぬだろうな。
団長:待て!なら上階の部下たちは!?
盗賊:ちゃんと解除しておいたから安心しろ。ついでに眠ってもらったけどな、外で。
部下が無事だと分かって安堵した自分がいた。
団長:・・・その台座の爆弾は解除できるのか?
盗賊:お前らが邪魔しなければな。
流石に邪魔する気にはなれないし、そもそも動けない自分たちに出来るわけが無いのだが。
カチャカチャと爆弾をいじりだす。
女騎士:団長!それでも・・・!私はコイツの言う事が信用出来ません!
その言葉にピタッと動きを止めて、
盗賊:・・・なぁ、俺も聞きたい事があるんだが。
団長:何をだ?
盗賊:俺を騙って偽の予告状を出したのはお前らなのか?
団長:・・・なんだって?
私の反応に納得したようで、クククと笑った。
盗賊:あのなぁ、俺が犯行予告なんてするわけが無いだろう。これはお前らを隠れ蓑にしたかなり周到な俺の抹殺計画だぞ。
奴が言う事には不思議と説得力があった。
偽の予告状は奴をおびき出す為のモノ。このネックレスは餌である。
騎士団に警護の依頼をしたのは、本命の爆弾を悟られにくくする為。
別に奴がこなくても、騎士団を壊滅させたのは奴の仕業だと言い張ればいい。
騎士団が奴を討てばそれも良し、討てずに爆弾に巻き込まれて果てても良し。
・・・ひどい計画だった。
盗賊:とまぁこんなところか。おそらく、この屋敷の主が黒幕だろう。
女騎士:私達が捨て駒だと言うのか!?
憤慨する彼女の気持ちは良く分かる。
これは国を守ってきた私達への侮辱だ。
盗賊:・・・そう言って欲しいのか?
女騎士:・・・フン!
再び作業へと戻る。
だが私は気づいてしまった。
これが多分、奴・・・いや彼の心を知る事の出来る数少ないチャンスだと。
団長:君は何故、ここに来た?
盗賊:は?
女騎士:団長?
団長:罠と分かっていて尚、君が来る必要がどこにあった?
そうだ、彼が来なければ、私達が爆弾で死ぬ事になっただろう。
放っておけば自分を妨害する人間がいなくなるというのに、彼は今こうして爆弾を解除している。
動きは縛られているが、今、私達は彼に助けられているのだ。
盗賊:・・・お、俺に盗めないものは無いと証明したいだけだ・・・っ!
とても分かりやすい。思わず笑ってしまう。
やはり彼は嘘を付けないタイプの人間だった。
団長:助けてくれてありがとう。
盗賊:う、うるさい。手元が狂う。
照れ隠しだ、すでに爆弾の解除は終わっていた・・・本当に彼は凄い。
女騎士:・・・悪かったわ。
盗賊:なんだって?
小さな声だったから聞こえなかったのだろう。
モジモジしながら、彼女は言った。
女騎士:・・・卑怯とか言って、ごめんなさい。
盗賊:気にするな・・・貰うものはちゃんと貰うから。
女騎士:なんか変な人ね、悪人とは思えないわ。
完敗だった。
彼がどうして盗賊に身を堕としているのかは分からないが、もう私達には彼が悪者には思えない。
自分の危険を顧みず、あえて罠に飛び込んで私達を助けてくれた。
だから思わず聞いてしまう。
団長:盗賊なんて辞めて騎士団に入らないか?
盗賊:・・・入ると思うのか?
思わない、一応聞いてみただけだが、その不敵な笑みを見てなんとなく嬉しくなった。
ネックレスを懐にしまいながら、彼は言った。
盗賊:さぁ、そろそろ始めようか?追いかける準備は出来てるか?
影縫いが解けている。
団長:単純な競争で君に勝てるわけがないだろう。だからお願いがある。
盗賊:・・・ハンデでもつければいいのか?
軽口を叩く彼に対して、剣を構え、真剣に言った。
団長:私と一騎打ちしてくれ・・・!!
続く(第十五話へ)。